三島市教育委員会と株式会社アイティエスの事例【前編】ー保護者とともに歩むGIGAスクール構想ー

 一般社団法人iOSコンソーシアム(以下、当会)では、教育現場における1人1台のiPad活動を支援して今年で活動11年目となる。GIGAスクール構想により全国の公立学校にも1人1台環境が展開されて概ね3年度が経過するが、現場はどのように変わったのだろうか。実態を探るべく、当会は教育委員会とそれを支える民間企業の取組みを取材し、記事として公開する活動を開始した。第一弾は当会の事務所がある静岡県三島市に訪問。そこでは学校・教育委員会と「保護者」との連携において注目に値する取り組みがあった。三島市教育委員会と株式会社アイティエスに聞いた。

保護者から学校に「1人1台」への感謝の声が届く

「こどもの予定・持ち物や、勉強の様子が今まで以上に分かるようになり、家庭での会話が増えた」

 学校現場を通じて、教育委員会にこんな声が届いたそうだ。三島市教育委員会では、GIGAスクール構想の学習者端末としてLTEタイプのiPadを選定。iPadは原則毎日持ち帰り、市内の児童には明日の予定や持ち物、一部の宿題・課題をiPad上で展開している。

三島市教育委員会 学校教育課 副参事 兼 指導係長 増田 圭子氏

 この背景について三島市教育委員会の学校教育課 副参事 兼 指導係長である増田圭子氏は「教職員の働き方改革の要素も大きい」と語る。学校を欠席した児童生徒には、教員が個別に次の日の予定などを時間を作って伝えていた。

iPad上で次の日の予定や学習内容を出席・欠席関わらず、すべての子どもたちにスムーズに伝えられるようにしていった学校も出ています。全てではありませんが、こういうやり方に変えていくのは、時代の流れとしてあってもいいのかなと思います」と、導入にあたって現場で議論があったことを話してくれた。こうした運用は学校ごとに少しずつ違っているようで、学校現場の工夫や裁量が発揮されているそうだ。

市全体でレベルアップを目指す「GIGA担当」とステップアップシート

 現場での創意工夫の文化を作るため、三島市教委は2つの工夫をしたという。1つは各学校に「GIGA担当」を置き、立ち上げ時は「GIGA通信」と呼ばれる情報発信や担当者連絡会を通して相互の取り組みを共有する機会を設けたこと。もう1つは「ステップアップシート」だ。市のiPadに導入されている主要なアプリ別、あるいは「情報活用能力の育成」といった項目別に5段階の達成ステップが示されており、これを共通言語として教職員がスキルの現在地を客観的に把握できるようにした。

三島市教育委員会 学校教育課 主任指導主事 高嶋大生氏

 このステップアップシートの作成に関与した主任指導主事の高嶋大生氏の話からは、シートは”指針として守るもの”というよりは、できるだけ現場の先生がやりたい、試したいという気持ちを大事にして設計したことが伺えた。
「iPadのアプリは、現場からヘルプデスクに要望をあげてもらえれば(教育委員会に事前に申告しなくても)入れてもらえる仕組みを構築しました」(高嶋氏)
 アプリは教育委員会や学校現場があらかじめ認定しているわけではなく、申請すれば自由に導入できる。さらに特定の学校の特定の学年だけで「まず試してみたい」という場合でも、ヘルプデスクに言えば対応してくれるのだという。受理された要望に基づきヘルプデスクはMDM経由でアプリを遠隔でインストールしてくれるので、特に現場の教員がやることはない。三島市教委はヘルプデスクから定期報告されるアプリ一覧表を通して現状を把握しているそうで、教委に事前にお伺いを立てる必要がないこともあり、現場では様々なアプリを活用した教育活動が展開されるようになったという。

 こうした工夫もあり、教職員自身がiPadを研修など学校外に持ち出す運用も定着。静岡県内複数の自治体が集まる場でも、端末を携行するのが三島市の先生であることが多いという声が三島市教委に届いているようだ。これは単に端末がLTEタイプだからというより、「先生たちの活用を支援し、勇気づける仕組み」体制を敷いているところが大きそうだ。

 加えて、児童生徒にとっても課題になりがちなWebフィルタリングについても柔軟な運用がなされていた。調べ学習のときに制限に引っかかって検索ができない「オーバーブロッキング問題」はよく話題になるが、これについては「できるだけ制限を緩和していくように動いている」(高嶋氏)そうで、この部分はステップアップシートにおいて「情報モラルおよびデジタル・シティズンシップの考え方も踏まえて」という形で明記され、学習上有効と考えられるものについては様子を見つつ、制限を段階的に緩和していく指針が示されていた。

 こうした工夫により、特に小学校高学年や中学校において、教員たちが特に指導しなくても学校行事や制作物に自然とiPadが活用されるようになったという。例えばタイピングは速度を児童生徒同士で競ったり、やりたいことをやるために必要という認識から自然と身についているという。また、アンケートの収集や保護者を招いた学校行事の中でも自然とiPadが使われており、こうした機会で保護者も端末の活用シーンや習熟度の向上を無意識に目にすることから、保護者の理解も進んでいるようだ。

保護者や児童生徒からの申告もフルで受け付けるヘルプデスク

 ここで気になるのが、前述のように柔軟な対応をしているように見える「ヘルプデスク」の体制だ。三島市では端末、LTE通信、ヘルプデスクをKDDI株式会社が一体で受託しているが、そのうちヘルプデスク業務を再委託の形で担当している三島市内の企業、株式会社アイティエスが取材に応じてくれた。

取材に応じてくれたGIGAヘルプデスク担当の増尾敦基課長と西島敏也グループ長

 「実はうち、児童生徒や保護者からの申告も受け付けているんです」

 このように説明してくれたのは、同社のヘルプデスクの責任者をしてい増尾 敦基氏。市が貸与するiPadのケース背面にはヘルプデスクの電話番号が記載されており、この番号は保護者にも案内されている。当会では様々なiPadを活用する自治体のお話を聞いてきたが、多くのヘルプデスク受託事業者は学校や教育委員会経由での問い合わせ対応までが一般的で、保護者や児童生徒が直接問い合わせをできるケースは(長期休暇中などの一部をのぞいて)あまり聞いたことがない。だが三島市では、児童生徒や保護者から、操作方法などの問い合わせレベルでもすべて対応しているのだという。

 となると、問い合わせが殺到するのではないか、と思ったのだが、ヘルプデスクの現場を指揮する西島敏也グループ長いわく

「正直、最初はどの程度問い合わせがくるかわからず不安もありました。立ち上げ時には保護者の方からご意見を頂戴することもあったのですが、今では問い合わせ数自体も安定しています」という。

 その背景には同社が保護者や児童生徒、そして学校教員向けに展開しているポータルサイトの存在が大きそうだ。ポータルサイトではログイン認証機能があり、児童生徒/保護者/教職員 を認識し個別に必要な情報が整理されている。基本的な操作方法の動画マニュアルも充実しており、例えば「指紋認証の登録方法」という動画は小学校低学年でiPadの初期設定時に現場で使われているのだという。こうした情報の一部は保護者にも開示されており、地道な啓蒙が保護者や児童生徒からの問い合わせを支えている部分もありそうだ。

 

教職員から集めた教科・シーン別の活用事例集

 さらに、教職員自身が考えた活用アイデア・ノウハウについてもわかりやすくまとめられている。教員向けページには各教科別・状況別に、iPadの活用事例が多数掲載されていた。事例はPDFなどの形で申告すれば、ヘルプデスクにて整理して追加される。状況別のトラブル対処法を示したページも充実しており、ヘルプデスクに日々寄せられる問い合わせ内容から共通性が高いものを順次、教職員向けページに展開されたり、「ヘルプデスク通信」にまとめて教員へ情報提供されているという。

 

端末の故障率は毎年2%程度、迅速な交換・再設定対応で学びを止めない

 ヘルプデスクの役割としては、端末の故障対応受付もある。端末の破損や故障が発生した際は、株式会社アイティエスがすぐ回収に行き、交換端末が通信事業者から届いたらその日のうちに再設定し配送するのだという。前述の通り、各学校で展開されているiPadは学年や学校によってインストールされているソフトも異なるのだが、そうした再設定まで含めて即日納品まで終わせるというのは(iPadの設定や管理の経験がある筆者としても)かなりのスピードだと感じる。業務上の負担が相応にあるのではないかと思い西島氏に尋ねてみたところ、興味深い話が聞けた。

「iPadはそこまで壊れませんので運用としては問題なく回っています。交換対象は概ね毎年2%程度、3年累計で6%台です。そのうち画面破損が半分程度を占めます。いわゆる自然故障は年率1%もないのではないでしょうか。バッテリー劣化の事例も現時点ではほとんど報告を受けていません」(西島氏)。

    三島市教育委員会 教育推進部 教育総務課 杉山慎太郎 課長

 実はほとんど同じ数字は三島市教育委員会の教育推進部 教育総務課 の杉山慎太郎課長もお話しされており、2月末での最新のデータでiPadの故障率は6.5%程度だという。LTEタイプなので校外学習で利用される機会が多いだけでなく、毎日学校と家庭を往復して日々の生活の中に利用シーンが組み込まれていることを考えると、故障や破損率が高いわけではないであろう。近年はどちらかというと本体よりも3年間の経年劣化による周辺機器の故障の方が目立っている状況であり、その対応が今後に向けた課題だという。

  できるだけ現場の教職員や児童生徒がiPadを自由に活用できる仕組みや文化作りに配慮しつつ、そうした活用を後方支援するヘルプデスクが地域の保護者や児童生徒までフルサポートしている三島市。杉山慎太郎課長は「LTEならではの活用事例がもっと必要だ」と更なる進化を追求しているようだが、毎日の持ち帰りや日々の活用を通じて保護者がGIGA端末の意義を感じられているという点は今後の端末更新とその予算確保などの面でも後押しになるだろう。

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 一般社団法人iOSコンソーシアムでは、こうした創意工夫を行っている教育委員会とそれを支える企業の取り組みを今後、順次取材していきたいと思います。取材対象はGIGAスクールの学習者用端末としてiPadを採用している自治体様となります。ご興味・ご関心のある自治体様、企業様は info@ios.or.jp までお問い合わせください。


執筆:一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事 野本 竜哉

※本文中の取材に応じてくださった方々の役職・ご所属は取材当時のものとなります。