【EDIX 2026 レポート】The Labで体感したAppleの“体験品質” ― MacBook Neoとオンデバイス AIが教員の校務を静かに変えていく

EDIX 2026 Apple特別出展ブース「The Lab」全景

The Labで体感した、Apple の“体験品質”。
MacBook Neo と オンデバイス AI が、教員の校務を静かに変えていく。

EDIX 2026 で多くの来場者が「今年いちばん作り込まれていた」と口を揃えたのが、Apple が独立エリアに構えた特別出展ブースだった。重厚な佇まいのブースの大半の領域を占めていたのが、予約制の体験ワークショップ「The Lab(ザ・ラボ)」。MacBook、iPad、AR、そしてオンデバイスの生成 AI を実際に手で動かしながら、Apple の教育観に触れる約60分のセッションが用意されていた。筆者も実際に体験してきたので、その模様を詳細にレポートする。

2026年5月13日〜15日 / 東京ビッグサイト Apple 特別出展ブース / 4セッション同時並行・予約制

“3日間限定Apple Store”のようなブース設計

Apple のブースは、他の出展者と完全に切り離された独立エリアに作られていた。量販店でも「他の製品と区別された専用什器」を求める Apple らしく、什器・照明・サイン計画はApple Store そのもの。3日間だけのためにここまで作り込むのか、と思わせる完成度である。

驚かされたのは音響設計だ。隣り合うブースで4つの体験セッションが同時並行で進行しているのに、他のセッションの音はほぼ聞こえない。こうした展示会場では隣の講演の音が邪魔で話がよく聞こえない、ということがよく起きるのだが、Appleは「机の裏側に小型スピーカーを内蔵し、受講者の手元周辺だけに音が届く設計」を採用することで、ワークショップ参加者の体験の集中度を高められるように配慮された作りになっていた。このブースの体験は日に日に注目を集め、最終日は昼の時点で当日の全枠が埋まったのも納得の作り込みだった。

机ごとにペアで配置されたMacBookとiPad
MacBook と iPad が机ごとにペアで配置され、すべて事前にセッションごとのコンテンツが仕込まれていた。

4つの体験が描く、Apple の教育エコシステム

The Lab では、参加者が「大学職員」「理科教師」「学級担任」「生徒」のいずれかの役割を担いながら、10〜13分の体験を4セッション順繰りで巡る構成になっていた。Apple Creator Studio(Keynote と Pixelmator Pro の AI 連携)、AR アプリ「Foxar」を使った「月の満ち欠け」、「Craft」に搭載可能なオンデバイス AI を活用した成績所見の下書き、そして「クラスルーム」アプリと「Goodnotes」による授業運営――。教員の日常と授業の流れを横断する4つの切り口が、見事に整理されていた。なお、この4つの体験は、別記事で紹介したEDIX初日の特別講演を行なったドミニク・リヒティ氏が説明している、Appleが教育領域で大切にしている4つの価値と完全にリンクしている。

特別講演で示された、Appleが教育領域に提供する4つの価値
特別講演で示されたAppleが教育領域に提供できる4つの価値。The Labはこの4つの価値を実際に体験できるような設計となっていた。

印象的だったのは、Keynote の新機能「プレミアムコンテンツ」と「コンテンツハブ」である。テーマ・概要・要点を入力するだけで AI がスライドを自動生成し、著作権クリアなイラストや写真をそのまま挿入できる。授業準備に費やしていた“素材集めの時間”がそっくり無くなる、という印象を多くの参加者が口にしていた。

“ネット未接続”で動く成績分析 ―― オンデバイス AI のデモ

個人的に最も注目したのは、3つ目のセッション「オンデバイス AI による成績所見作成」だった。Apple シリコンを搭載した MacBook 上で、ノートアプリ「Craft」を使い、生徒の複数の学習データから成績評価の所見の下書きを生成する――というデモである。現在、多くの公立学校が遵守している文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」や「初等中等教育における生成AIの利活用に関するガイドライン」においては、成績や学校特有の機微情報の取り扱い指針が厳格に定められている。しかし今回のデモ中の MacBook は、最初から Wi-Fi を切られている状況、つまり、個人情報を一切クラウドの AI に送らずに、すべてが端末内で完結していた。この状態であれば、セキュリティを担保しつつ教師の仕事をローカルAIに任せることができるため、より早く校務を終えて、その時間を先生たちが有効活用できる。まさに「働き方改革」における救世主とも言えるユースケースと言えるだろう。

機密性の高い生徒データの保護を問うセッションスライド

さらに驚いたのは、ローカル AI を回していたのが MacBook Air などの上位機ではなく、今年新しく登場したエントリーモデル「MacBook Neo」だったことだ。Neo はメモリ 8GB という控えめなスペックだが、それでも所見の下書きが想定以上にスムーズに生成される様子をこの目で見ることができた。「MacのApple シリコンのメモリ8GBは、Windows PCのメモリ16GB 相当の働きをする」と現場のユーザーがよくいうのだが、8GB でこれなら、16GB の MacBook Air に乗せたときの校務処理が十分実用になるのでは――そんな手応えを残すデモだった。

Appleシリコンの「ユニファイドメモリ」は、ローカルAIを動かす環境として非常にコストパフォーマンスが良いことでAIギークの間ではよく知られている。それをいち早く校務領域に提案するデモが展開されたのは、今回のEDIXの中でも特筆されるべき動きだと思う。

校務 PC としての MacBook Neo ―― “GIGA 第2期”の現実解

今回の EDIX を象徴するメッセージのひとつが、「MacBook Neo を先生方の校務 PC として推す」という Apple の明確なスタンスだった。すでにそうした動きは私立学校だけでなく公立学校にも広がっており、岐阜市では管理職以外の教員ほぼ全員に MacBook Air がすでに配備されている。しかしApple が訴求していたのは、もう一段スペックを抑えたエントリーモデルである Neo を、現実的な校務 PC として置ける、というメッセージであったように思う。

エントリーモデル「MacBook Neo」

The Labでの実機体験を踏まえると、「これは現実的な選択肢になる」というのが正直な感想である。むしろ最大の課題は、自治体・学校法人向けの Neo の在庫不足。「今オーダーしても、10月くらいまで入ってこない」という声も、展示会場内のあちこちから聞こえてきた。

“猫も杓子も AI”の中で、Apple が選ばなかった道

今年の会場では、各社のブースが軒並み「AI」を前面に押し出していた。Google ブースは Gemini 一色だったし、「AI搭載」を謳う展示は数えきれないほどあった。一方で、Apple は本会場(EDIX)でも別会場(別記事で触れる有明カンファレンス)でも、「子ども向け iPad でApple Intelligence を活用する」というメッセージを、自らはほぼ全くと言っていいほど、発信していなかった。

GIGA スクールで全国に行き渡っている第11世代 iPad(A16)では、ハードウェア的にApple Intelligence が非対応となっている。Appleとしてはこのモデルが発売された2025年の3月に、Apple Intelligenceに対応させる選択肢もあったであろう。しかし筆者は、Appleが意図的に「機能を載せられなかった」のではなく「載せないと決めた」のだと、今回のEDIX訪問で強く感じた。現状の生成 AI を、小学生・中学生のメインデバイスにそのまま乗せることは適切ではない――。Apple は、業界最大級の商業機会である EDIX の場でも、その線引きを崩さなかった。そのこと自体が、今回の出展でAppleが静かに、しかし信念を持って示した大切なメッセージだったように思う。

体験品質に全振りしたブースが残したもの

The Labは、1回のセッションあたり8名程度×4セッションの32名程度という、限られた人数しか体験できない設計になっていた。EDIXのような「展示会」で、多くの人に製品の体験や価値を知ってもらうには、ややもったいないブースであるようにも感じる。けれども、The Labの設計思想は明確だった――「来場者の数」ではなく「体験の質」を最優先する。AI 機能の有無、スペックの一覧、価格表ではなく、机に座って手を動かし、Apple の教育観そのものを身体で感じてもらう。今年は特に“猫も杓子も AI”という雰囲気が支配していた会場の中で、最もアナログで、最も生身の体験設計を行なっていたのが、Appleだったかもしれない。

(2026年5月/EDIX 2026 The Lab 取材レポート)