「スマホソフトウェア競争促進法」施行に向けた教育関係者へのメッセージ(第0回)

 スマートフォンにおけるアプリストアやブラウザ、検索エンジン、そして課金手法の「自由化」をする「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(以下、スマホソフトウェア競争促進法)」が2025年中に施行される可能性が高くなりました。本連載では、本法案の施行に伴って起きる点について、特に教育関係者として注意したいこと・取り組みたいことを中心に、当会の顧問3名へのインタビュー形式で紹介紹介します。

 第0回となる本稿では、法律案の概要(メリットとリスク)を中心に解説します。

「スマホソフトウェア競争促進法()」には何が書かれているのか

今回の法案は、その名の通りスマートフォンにおけるソフトウェア領域での競争を促進することを目的としたものです。その中でも、特に以下の4つを「特定ソフトウェア」として規定しています。

  1.  モバイルOS( iOS や Android OS等)
  2.  アプリストア(Apple の App Store、Google の Google Play ストア等)
  3.  Webブラウザ(Apple の Safari、Google の Chrome等)
  4.  検索エンジン(Google等)

この4種類の「特定ソフトウェア」を提供する事業者に一定の制約を加えるとともに、課金システムの解放や競合ソフトウェア提供事業者への不公正な取り扱いの禁止などが法案では規定されています。いずれも少数の事業者が市場を寡占している領域で、その少数事業者の自社サービス以外の利用に一定の制約がかけられている現状を打破する意図があります。これは主に経済界からの要請や、同様の法律が2024年の3月に施行されているEUの法律(EUデジタル市場法、DMA(The Digital Markets Acts))や、米国司法省が大手デジタルプラットフォーム事業者を提訴する動向等も踏まえ、検討が開始されたものです。

法案は公正取引委員会のHPで公開されており、本稿執筆時(2024年5月3日現在)では4月26日に閣議決定され、衆参両院での審議前という状態です。2024年の通常国会(6月23日までの予定)で成立すれば、1年半以内、つまり2025年末には施行されている可能性があります。

具体的にどのような変化が起きるのか

仮に今回の法案が原案通り施行された場合、具体的には以下のようなリスクがあります。

  •  非公式のアプリストアで提供されるアプリが、公式アプリストアよりも厳格な審査や検査を行われず、不適切な内容を包含する可能性がある
  •  結果、詐欺や内容・年齢的に不適切なコンテンツを含むアプリが非公式のアプリストアから流通してしまうリスクがある
  •  非公式のアプリストアがMDMやフィルタリング等のすり抜けてしまい、従来の仕組みでは利用を防げないリスクがある
  •  公式の課金システム以外の手法が利用可能になることで、誤課金防止や保護者などによる課金の早期認知の手段が減り、十分な知識がない利用者による誤課金・重課金のリスクが高まる
  •  純正のブラウザ以外を利用可能とすることで、それを前提としているフィルタリングやセキュリティの仕組みが無効化されるリスクがある
  •  非公式のストアや非公式の課金システムを通じて、プライバシーに関する情報が意図しない形で流布されてしまう危険性がある

もちろん、こうしたリスクが発生することは非公式アプリストアや純正以外のブラウザなどを提供する事業者にとっても不都合ですし、今回の法案で規制を受ける可能性が高いAppleやGoogleなどの事業者にとっても痛手です。実際にAppleはEUにおけるDMAの施行を受けて、同社が独自に構築した新たなセキュリティ対策の仕組みの詳細を公表しており、その中ではOS内のセキュリティや個人情報の保護を一定程度維持する仕組みがある一方で、非公式のアプリストアについては「コンテンツの内容」までは審査しないことも明言しています。

一方で、本法案が施行されることで、以下のような利用者やアプリ/コンテンツ開発者にとってのメリットもあります。

  • アプリ開発者やコンテンツ提供者が公式アプリストア/決済手段で徴収されていた最大30%の手数料を(非公式アプリストアであれば)回避、あるいは大幅に削減できる
  • 一般利用者がiPhoneやAndroidスマホからKindle書籍や電子コミック等をアプリ上から直接購入できない(購入のためのリンクもない)という制約がなくなり、コンテンツを購入しやすくなる(同様のメリットは音楽配信やゲーム等でも享受できる)
  • 複数のアプリストアやコンテンツの購入ルートができることで、価格や内容面での競争が促進される
  • 今後、スマートフォンにて消費者やアプリ開発者・コンテンツ提供者が不利になるような変更を大手事業者が行いにくくなる

このように、本法案にはメリットとリスクが同居していることがわかります。

GIGAスクール構想はこの規制を受ける?

今回の法律案では、第一章「総則」内の第二条(定義)において、対象となるのは「スマートフォン」であり

  • 常時携帯して利用できる大きさであること
  • 当該端末にソフトウェアを追加的に組み込み、利用できること
  • 当該端末を用いて電話およびインターネットの利用ができること

と規定されています。そのため、タブレット端末やノートPC等は対象外と解釈でき、教育関係者が最も懸念する「学習用コンピュータ」は対象外であると想定されます。

この例外規定は、2023年6月に公表された本法案の「最終取りまとめ案」へのパブリックコメントを受けて補記されたと思われます。最終取りまとめ案では”対象端末”が具体的に示されてはいなかったため、学校・教育機関への影響が懸念されました。そこで当会では

  • 教育機関で利用される端末では特に青少年保護の考え方が重要なこと
  • そのためにMDMやフィルタリング等、現場では工夫を重ねてきたこと
  • 法案による変更がそうした工夫を無効化し、青少年保護の観点で一定のリスク増加が懸念されること
  • 法案の利点は理解するが、教育現場で拙速に取り入れると国策として進めているGIGAスクール構想等に影響が出るリスクがあること

等を趣旨とするパブリックコメントを提出。その後、内閣官房からの個別ヒアリングにも回答致しました。当会は教育情報化を支援するフィルタリング・MDM・通信・周辺機器事業者、学校関係者、そして運用・活用を支援するICT支援員などから構成されており、その中でも「青少年の保護」は長年の努力の積み重ねであり、現在においても最大の関心事です。結果的に「青少年保護」についてはパブリックコメントにおいて同様の意見が複数集まったこともあり、

  • 明確に対象が「スマートフォン」であると限定された
  • アプリストアや課金の仕組みなど一部項目において、「青少年保護」や「セキュリティ」「プライバシー保護」等の措置が必要で、かつ他の代替手段の提供が困難な場合には、従来措置を継続できる「正当化事由」が規定された

という変化がありました。これは関係者が法の趣旨を毀損しない範囲でパブリックコメントの内容をきちんと考慮してくれた結果であると考えており、EUのDMAと比較すると、教育分野における影響はかなり低減された内容になったと思われます。

学校の端末が対象外だから大丈夫、ではない

ただ、学校で利用する学習用端末は該当しないからといっても、児童生徒の私物スマートフォンについては本法案の適用範囲となることで状況が大きく変わります。加えて、前述の「青少年の保護」のための仕組みがどのように規定され、運用されるかは現時点では不透明です。

そのため、今回の法案の動向は未成年の子を持つ保護者の方はもちろん、学校関係者も含めて注視することが重要です。学校や家庭において、重課金や年齢/内容的に不適切なコンテンツへのアクセス、詐欺や犯罪などへの関与につながらないよう「青少年保護のための新たな工夫」を提言し、啓蒙していくことが必要です。これは情報モラル教育やデジタル・シティズンシップ教育といった、デジタル機器のメリットとリスクを正しく認識し、適切に活用して成果に繋げていくという指導をさらに前に進めていくことも意味します。元々この領域は、常に新しい動向を踏まえて指導する内容を毎年のように更新されていく傾向が強いため、本法律に伴う変化も早期にフォローしていくことが重要でしょう。

法案に対する当会顧問の見解

本法案の閣議決定の報を受けた直後、当会代表理事である筆者と当会の顧問3名による会合を設定し、本法案についてそれぞれ以下のような考えを示しています。

フリーランスジャーナリスト 林 信行 顧問

日本国内でもEU圏に追随してサイドローディング(公式アプリストア以外からのアプリの導入のこと)を許容する動きが出る可能性は高いと思います。スマホ限定になる可能性が高いとはいえ、AirDropやクラウドを使ってiPhoneと簡単に連携できることもiPadの魅力でした。これから新たにどのようなセキュリティ上のリスクが浮上するのか。それによってどのような対策が必要なのか。学校や教育関係者が多く集まるiOSコンソーシアムが、青少年保護やセキュリティなどの面で重要な「ベストプラクティス」を取りまとめ、政府、教育機関、そしてアップルに発信していく場になればと思います。

近畿大学附属高等学校  乾 武司 顧問

おそらく学校の端末については、サイドローディングはMDM等の仕組みである程度制御・制限はできると思いますが、これまでiPadのOSやアプリストアの安全性から自由を許していた学校が、今回の件で制限を強め、それが生徒の自由な選択を阻害する可能性を懸念します。それよりも恐れているのは、学校端末と個人スマホのセキュリティレベルが大きく開くことで、学校が個人スマホ関係の啓発や教育を回避するようになることです。

YouTube クリエイター 平岡 雄太 顧問

昨今、Facebook等で詐欺広告が大きな話題になっており、審査の仕組みがあるとしながらそれが防げていない中、果たして第三者が運営するアプリストア等が不適切なコンテンツをきちんと防ぐことができるのかという点は非常に疑問です。Appleがいかに安全性をこれまで長年にわたって作り上げてきたことはきちんと評価されるべきだと考えます。

 

今後の連載と情報公開の予定

本連載では次回以降、それぞれの顧問に対談形式で詳細をお聞きし、その内容を記事として公開していく予定です。

第一弾となる林 信行 顧問との対談は、5月8日より東京で開催される教育ICTソリューションEXPO(EDIX)にて、初日 5月8日(水) 10:30 より、アライアンス会員である一般社団法人ICT CONNECT 21のブースにて、公開収録の形式で行います。

オンラインでの視聴、およびアーカイブの公開も行う予定ですので、ぜひ以下のURLからご登録ください。

【A-103】5月8日(水) 10:30~11:20

■タイトル:

緊急開催!「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」に教育界はどう備えるべきか

■担当:
GIGAスクール構想推進委員会 利用促進部会 研修サブ部会

■概要:
4月26日(金)に閣議決定された「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」。これから衆参両院で審議が行われますが、大枠として欧州で先行するスマホ関連市場の自由化に近い流れが日本にもやってくることが想定されます。「サイドローディング」と呼ばれる、アプリストアに守られてきたスマホに様々な方法でアプリがインストール可能になるなど、青少年保護へのリスクやGIGAスクール構想への影響も懸念されます。この動向に早くから警鐘を鳴らしてきたジャーナリストの林信行さんと共に、本法案の最新動向と、施行に向け教育機関として準備すべきことを考えます。

■登壇者:
※敬称略

林 信行(一般社団法人iOSコンソーシアム 顧問)

野本 竜哉(一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事)

■オンライン視聴/アーカイブ視聴希望受付URL:

https://pro.form-mailer.jp/fms/ac98595e254731