【EDIX 2026 レポート】Designed for every kind of learner ― Apple特別講演が描いた“学習者エージェンシー”と教育支援の全体像

EDIX 2026 Apple特別講演

Designed for every kind of learner.
EDIX2026 Apple Keynote が描いた、学習者のためのテクノロジーと支援の全体像。

2026年5月13日、EDIX 2026 のオープニングセッションとして開催された Apple の特別講演。「Appleのテクノロジーが引き出す、主体的な学び」と題された約60分のキーノートには、Apple 本社のワールドワイド教育チームから4名のスピーカーが登壇した。それぞれが「学習者主体(エージェンシー)の哲学」「製品ラインナップとデザイン思想」「ID 管理・コンテンツフィルタリング・試験モード」「教職員のスキルアップを支える研修プログラム」という4つの柱を、リレー形式で丁寧に紐解いていった。本記事ではその全体像を、登壇者ごとに整理してお届けする。

2026年5月13日 09:50–10:55 / 東京ビッグサイト EDIX セミナー会場 / 登壇:Apple 本社 ワールドワイド教育チーム 計4名

プロローグ ―― 「教育は Apple の DNA」というメッセージ

講演は、ティム・クック CEO の言葉「教育は Apple の DNA に組み込まれています」というメッセージを、メインスピーカーであるApple ワールドワイド教育プロダクトマーケティング担当 シニアディレクターである ドミニク・リヒティ氏が紹介するところから始まった。創業当初から、Apple は自分自身や周りの人の学びを後押しし、その過程で「新たな発見」を生み出すための最高のテクノロジーを作ることを大切にしてきた――。創業からおよそ50年、ティム・クックの言葉は、その軌跡を一文に凝縮するものとして紹介された。

ライブラリでの学び(米テキサス州オースティン)

ドミニク・リヒティ氏 ― オープニング & 学習者中心の哲学

Apple/ワールドワイド教育プロダクト マーケティング担当 シニアディレクター

1人目の登壇者は、世界各国の教育者と直接対話を重ねてきた ドミニク・リヒティ氏が務めた。冒頭では、自身も教師としてキャリアをスタートさせ、家族にも教育者が多いと自己紹介を行ったうえで、「学習者一人ひとりが、自分に最も合った方法で学べる環境をつくる」というApple の教育に対する基本姿勢を語った。

「自信を持って学べている」のはわずか7%という現実

話の中心になったのは、Universal Education at Brookings と Transcend が共同で行った調査結果である。「学習に自信を持ち、エンゲージしている」と答えた生徒は、世界全体でわずか7%にとどまる。テクノロジーの普及にもかかわらず、子どもたちの学びの“手応え”そのものは、深く揺らいでいる。そのうえで提示されたキーワードが「エージェンシー(学習者の主体性)」だった。

エージェンシーとは、学習者が自分自身の学び方にオーナーシップを持つ力のこと。「答えを教えること」ではなく、「自分で答えを見つけられる力を渡すこと」が、学びを変革する最大の梃子になる――。ドミニク氏は「成功の真の尺度は、批判的思考力を持つ、生涯学ぶ学習者を育てることだ」と繰り返し強調した。

学齢別に描かれた「エージェンシーの実践」

続いて、Apple のテクノロジーがエージェンシーをどのように支えているかが、学齢ごとに紹介された。幼児教育では iPad のスケッチ機能で蝶のライフサイクルを記録し、小学校では AR で地球の自転を立体的に体感する。中学校では Keynote とフリーボードで議論を可視化しながらプレゼンテーションを準備し、高等学校では Pages で学校新聞を共同編集。さらに大学以降は、Xcode で自分のアイデアを実際のコードに変えていく――。Apple のラインナップは、年齢に応じて学習者を“受け手”から“担い手”に押し上げる役割を担っている、というメッセージだった。

小中高等学校の教室におけるAppleのテクノロジーの影響について、アジア太平洋地域での調査レポートの数値も示された。Apple デバイスを使う生徒の70%が、「学習への主体性」を頻繁に示していると教師が報告しているのに対し、競合製品では59%にとどまる。日本の教師からは、「モチベーション」「リスクを恐れない姿勢」「責任感」「批判的思考」といったスキルが向上していると報告されており、その傾向はとくに顕著だという。

ドミニク氏は、ここまでを「Apple のテクノロジーは、学習者のエンゲージメント、自己表現、長く続く価値、そして生涯にわたる学習意欲という4つの柱を満たすために設計されている」と総括し、次のスピーカーへとマイクを渡した。

ジェニファー・マーシャル ― 製品ラインナップとデザインの3つの柱

Apple/ワールドワイド教育プロダクト マーケティング担当 シニアマネージャー

2人目の登壇者であるジェニファー・マーシャル氏は、テクノロジーが人間性と統合されたときに初めて学習者の人生が良くなる、という Apple の信念をあらためて確認したうえで、教育現場で使われている Mac、iPad、Apple TV のラインナップを丁寧に紹介していった。ハードウェアの仕様カタログのような語り口ではなく、「どの段階のどんな学習者の、どんな場面に効くのか」を一つずつ言葉にしていく、教育者の立場に立ったプレゼンだった。

教室での協働(米カリフォルニア州オークランド)

3つの柱 ―― アクセシビリティ、環境、プライバシーとセキュリティ

ジェニファー氏が最も時間を割いたのは、Apple の製品が共通して持つ3つの設計上の柱だった。

ひとつ目は「アクセシビリティ」。視覚・聴覚・身体的特性、認知的特性など、どんな学習者でも自分の力で操作できることを最初から組み込んでおく姿勢である。ふたつ目は「環境」。リサイクル素材の活用、エネルギー効率、長く使えるアップデート保証など、教育機関の総保有コスト(TCO)を下げる設計が紹介された。そして3つ目が「プライバシーとセキュリティ」。「プライバシーは基本的人権である」という Apple の立場を改めて明確にし、学校という極めてセンシティブな環境にこそ、データ収集を最小化する設計が必要だと語った。

Mac・iPad・Apple TV のラインナップを“学びの場面”でつなぐ

Mac については、MacBook Air を“長時間バッテリーで膨大なデータと向き合うための機体”、MacBook Pro を“映像編集・データ分析など創造性を加速させるための機体”、Mac mini を“教室の据え置き機やローカル AI の母艦”として位置づけて整理された。iPad についても、最新のエントリーモデルから、M シリーズチップを搭載した iPad Air・iPad Pro まで、「学習者の主体性をどう拡張するか」という観点でラインナップが説明された。

Apple TV にも触れた点が印象的だった。生徒の iPad や Mac の画面を、AirPlay でそのまま大型ディスプレイへ映し出すことで、教師は教室前方に縛られず、プロジェクター用のケーブルや HDMI 切替器の煩雑さからも解放される。「テクノロジーが教師を“前に立たせる装置”から“生徒の隣に座らせる装置”に変える」という、Apple の一貫した哲学が、ここでも丁寧に語られた。

AirPlayでの画面共有

そしてジェニファー氏は、AR(拡張現実)に話題を移す。iPad の AR は、教科書の中だけでは伝えきれない抽象的な概念を“目の前で起きていること”として体験させる装置である。天体、人体、化学反応、地理的スケール ―― これまで言葉と図に頼ってきた学習領域に、新しい質の理解をもたらすツールとして位置づけられた。

ニコール ポズナー ― ID 管理、フィルタリング、試験モード

Apple/ワールドワイド教育プロダクトマーケティング担当 マネージャー

3人目に登壇したのは、ニコール ポズナー氏。ワールドワイド教育プロダクトマーケティングを担当するマネージャーで、学習者を支える Apple のテクノロジーを「実際の学校現場でどう動かしていくのか」という運用上のディテールを担当した。

ポズナー氏は冒頭、「教育機関がテクノロジーを安心して導入できるかどうかは、教師が日々の授業に集中できる環境を整えられるかにかかっている」と述べ、そこに必要な4つのレイヤー―― “ゼロタッチ導入”“デバイス管理サービスとコンテンツフィルタリング”“教育向けに配慮された ID 管理”“クラスルームと試験モードによる授業中の制御”――を順を追って解説していった。

ゼロタッチ導入 ―― 箱を開けて電源を入れるだけで運用準備完了

最初に紹介されたのは、ゼロタッチ導入である。iPad、Mac、Apple TV のいずれも、箱から取り出し、電源を入れ、ネットワークに接続するだけで、Apple School Manager(ASM)と MDM を通じて自動的に学校の管理対象として登録される。IT 担当者が一台ずつ手作業でセットアップを進める必要はない。「大規模展開を、小さな IT チームでも回せる仕組みになっている」とポズナー氏は語った。

2つの基本要素 ―― デバイス管理サービスとコンテンツフィルタリング

続いて示されたのは、Apple のプラットフォームに直接組み込まれた2つの基本要素である。

1つ目は「デバイス管理サービス(MDM)」。学校のポリシーをデバイス全体に一括で適用し、アプリ、設定、ソフトウェアアップデートを一対一・共有・BYOD のいずれの環境でも揃えられる。2つ目が「コンテンツフィルタリング」。インターネット利用ポリシーを徹底し、許可されていない、または不適切なコンテンツへのアクセスを未然に防ぐ仕組みである。MDM 各社は、ポリシー違反の検知や是正のための包括的なレポーティング機能も提供しており、運用の可視化が一気に進む。

教育向けに配慮された ID 管理 ―― 管理対象 Apple Account とプラットフォーム SSO

「教師や生徒一人ひとりに、安心して使える ID を渡すこと」――ポスナー氏は、デバイス管理と並ぶもう一つの大きなテーマとして、教育向けに最適化された ID 管理の話題に時間を割いた。

学校では、生徒が自分の Apple サービス(iCloud、Apple TV、Apple Books など)を使う一方で、クラスルームの学習アプリや、サードパーティのクラウドサービスにもシームレスにサインインできる必要がある。Apple が用意した解は「管理対象 Apple Account(Education Managed Apple ID)」と「シングルサインオン機能拡張(プラットフォーム SSO)」の組み合わせである。

管理対象 Apple Account は、学校が管理・発行できる Apple ID であり、200GB の iCloud ストレージが標準で付与される。Microsoft Entra ID や Google Workspace、ClassLink などの IdP とプラットフォーム SSO を組み合わせれば、生徒は学校の認証情報でサインインするだけで、Apple サービスにも、Kahoot! のような外部の学習アプリにも、もう一度ログインし直す必要なくアクセスできる。「サインインの摩擦を最小化することは、授業時間を取り戻すことと同義だ」とポスナー氏は語った。

クラスルームと「試験モード」―― 授業の流れを取り戻すための仕組み

ポスナー氏のパートで、もう一つ大きく時間が割かれたのが、iPad・Mac 向けの「クラスルームアプリ」と、Apple School Manager がコントロールする「試験モード(アセスメントモード)」だった。

クラスルームアプリは、教師が iPad や Mac から、生徒のデバイス画面をリアルタイムに把握し、特定のアプリや Web ページを一斉に開かせたり、注目が必要なときには画面をロックして黒板に集中させたりできる。“スクリーンタイムを意図的に、適切に使うための道具”として位置づけられている。

そして試験モードは、中間試験・期末試験・自治体や全国規模の学力テストをiPad と Mac の上で安全に実施するための仕組みである。デバイスを“試験中に必要な機能だけ”に絞り込み、他のアプリ・通知・Web 検索・スクリーンショットを抑止する。教育委員会や学校設置者からは「カンニング対策」のためのものとして語られがちな機能だが、ポスナー氏はむしろ「テストの公平性を担保しつつ、テスト後はそのまま学習用のデバイスに戻れる、という連続性に意味がある」と説明した。

さらに、家庭での過剰使用への対応として、ファミリー向けの「スクリーンタイム」と「コンテンツフィルタリング」が学校のポリシーと衝突しない形で連携することにも触れられた。「学校で築いた学習環境を、子どもたちのプライバシーを尊重しつつ、家庭にも自然に拡張する」――ポズナー氏のパートは、その細部に至るまで丁寧に設計されていた。(管理運用については、別記事を参照)

アマンダ アフシャー ― 教職員のスキルアップを支える研修プログラム

Apple/ワールドワイド教育プロダクトマーケティング担当 シニアマネージャー

Keynote の締めくくりを担ったのが、アマンダ アフシャー氏。ワールドワイド教育プロダクトマーケティングのシニアマネージャーで、自身も元教員という経歴を持つ。

アフシャー氏が冒頭で投げかけたのは、来場している教育者への問いかけだった。「会場の中で、教員としてキャリアを始めた方は?」「いまも生徒と直接関わっている方は?」次々と挙がる手を見ながら、「素晴らしいツールは、優れた教育者と出会ったときに初めて意味を持つ」と語り、Apple が用意している“教職員のスキルアップを支える4つのプログラム”の説明へと入っていった。

教職員の学び合い(英ロンドン)

教育者向け4プログラムの全体像

Apple は、教育者一人ひとりの段階や規模感に合わせて、「Apple Education Community」「Apple Teacher」「Apple Professional Learning Specialist(APLS)」「Apple Learning Coach(ALC)」という4つのプログラムを用意している。アフシャー氏は、これらを“ボトムアップ”と“スケール”の2軸で位置づけた。

ひとつ目の「Apple Education Community」は、世界中の教育者が参加するコミュニティで、1億人を超えるユーザーが、無料の学習プログラムや授業アイデアを共有している。コミュニティ内には、教師同士が日々の実践やアドバイス、活動アイデアを交換するフォーラムも用意されており、所属校を超えて学び合える場になっている。

ふたつ目の「Apple Teacher」は、教師個人が自分のペースで進められる無料の自己学習プログラムである。Apple 製品の基礎的な活用方法を体系的に学べる構成で、認定者は世界で40万人を超えるという。「これからクラスルームでテクノロジーを本格的に使ってみたい」という教師の最初の一歩を支える位置づけだ。

Apple Professional Learning Specialist(APLS)―― 現場に伴走するスペシャリスト

3つ目に紹介された「Apple Professional Learning Specialist(APLS)」は、Apple 認定の教育専門スペシャリストが、学校や教育委員会に直接出向き、現場の課題や目指す方向に合わせた研修・伴走支援を行うプログラムである。

「単日のワークショップから、1年単位の長期伴走まで、予算と必要性に応じてカスタマイズできる」とアフシャー氏は紹介した。教員研修にありがちな“座学を一度受けて終わり”ではなく、実際の授業設計や教科横断のプロジェクトに、専門家が並走する形が選ばれている。アフシャー氏は「APLS は、組織変革を“外から後押しする”ためのプログラム」と表現していた。

Apple Learning Coach(ALC)―― 校内の専門家を育てるプログラム

そしてアフシャー氏が最も時間を割いたのが、Apple Learning Coach(ALC)である。ALC は、外部のスペシャリストが入る APLS とは対照的に、校内にいる教員自身を「学びを牽引するコーチ」へと育成する無料の認定プログラムだ。

受講した教員は、自身の授業に Apple のテクノロジーを統合するだけでなく、同僚教員の授業設計を支援し、学校全体の文化を内側から変革していく役割を担う。「認定者からは、“生徒と教師の体験を引き上げる自信が明らかについた”という声が圧倒的に多い」とアフシャー氏は紹介した。コーチから学校内の教師へ、さらに生徒へと、影響が波紋のように広がっていく構造が ALC の最大の特長だという。

現在、世界には約 7,000 人の Apple Learning Coach が認定されており、彼らがコーチングを行った教育者は約 16 万人にのぼる。「一人のコーチが、隣の同僚を変える。やがてそれが校舎全体を変える ―― そういう連鎖が、確かに起き始めている」とアフシャー氏は語った。ALC は日本でもこの2年間パイロット運用が続けられており、今夏から、関心のあるすべての教育者を対象に正式提供を開始する予定であることも、この場で発表された。

クロージング ―― 「Possibility(可能性)」のための講演だった

Keynote の最後には、1人目の登壇者でもあるドミニク・リヒティが再び登壇。「私たちは今日、テクノロジーについて話してきたつもりだったが、本当に話してきたのはPossibility(可能性)のことだ」――。学習者一人ひとりが「自分の学びの主導者」と感じられること。教師がテクノロジーを介して、もっと多くの生徒のそばに立てるようになること。校内に専門家を育て、組織として変革を続けられること ――Apple が4人のスピーカーを通じて描こうとしたのは、「Designed for every kind of learner」というメッセージの、その具体的な現在地だった。

午後には、講演で語られた哲学とプロダクトに実際に触れられる Apple スペースとハンズオン体験「The Lab(ザ・ラボ)」が、東A ホール奥の独立エリアにオープン。Keynote で示された“可能性”を、参加者一人ひとりが自分の手で試す時間が用意されていた。(別記事参照)

「私たちは今日、テクノロジーについて話してきました。けれども本当に話していたのは、Possibility(可能性)についてだったのです。」
— EDIX 2026 Apple Keynote クロージングより