【独自記事】整備した機器を長持ちさせるには? -高温環境からバッテリーを守る-

※本記事は、「iPadと学び」オリジナル記事としてご寄稿をいただいた記事です。

執筆:教育産業株式会社 ICT営業部 チーフコンサルタント 山口宗芳

自己紹介

教育機関向けiPad導入運用サポートを担当。これまでに学校導入に携わったiPadは10万台超。iPad本体だけではなく、Apple社の提供する学校向けソリューションであるApple School ManagerやApple Configurator2の知識を有し、周辺機器やMDMなど幅広い製品を含め、iPad導入計画の立案や提案、運用に課題を抱えている教育機関へ最適なソリューションを提案・提供している。
2019年3月、Appleプロフェッショナルラーニング基礎インストラクター認定。

これまで長年にわたってiPadを教育機関に導入する仕事をしてきましたが、GIGAスクール構想で大変多くの台数の端末が日本全国で導入されることになり、今後の管理運用上で教育委員会の端末整備担当の方、そして現場の先生方に知っていただきたい大切なことがありますので、この場を借りてお伝えしたいと思います。

夏場の端末保管にご用心!

昨年のちょうど今頃、新型コロナ感染予防の対策の一つとして、全国の学校が一斉に休校措置が取られたことにより、学校での通常授業を進めることができなくなってしまうという状況下において、自治体毎に教育ICT環境整備のばらつきがある中で代替手段による授業を満足に進められなかった自治体も少なくはなく、文部科学省が示した当初のロードマップとして、令和2年度に小5~6年生分と中学1年生分の整備を皮切りに、令和5年度の小1~2年生分で整備完了計画であったGIGAスクール構想が、前倒しで令和2年度中に全児童生徒分の導入を実施されることとなったことは記憶に新しいと思います。なお、GIGAスクール構想による学校の教育ICT環境整備には、教育用コンピュータ端末以外にも、ネットワーク機器整備や導入する端末用の充電保管庫も含まれています。

1人1台分の端末が導入となるものの、それら情報機器の割り当て方法は教育委員会や国立大学附属校に委ねられている状況となりますが、今回お伝えしたいトピックの対象として、児童生徒宅への持ち帰りの方策を取らずに、学校内で保管するケースにのみ当てはまるものになりますので、予めご注意願います。

下の写真をご覧ください。

写真に映っているのは、iPad本体を横から水平方向に見たものになります。通常固着されているものと思われるiPad本体パーツとディスプレイパーツがパカッとフタが開いてしまったような状態になっていることがお分かりになると思います。

トラブル発生の原因はバッテリーパック内に生じたガス

上記で紹介した事例は何かというと、iPadだけでなくほぼすべての情報機器に備わっているバッテリーパック内にガスが発生・充満してしまい、このガスによりバッテリーパックが膨れ上がり、その力で本体パーツと接着されているディスプレイパーツを持ち上げてしまって、分離してしまったと推測される状況です。

これらの情報機器は校内で充電保管庫に収納された状態で保管しており、使わない時間があればその間ずっと充電されている状況で、保管場所は常時空調が掛けられている部屋ではありませんでした。これら情報機器のバッテリーの扱いについて、Appleは公式情報として公開しているので、そちらを確認してみたいと思います。

Apple ~ バッテリーの駆動時間と耐用年数を最大限に延ばす ~

https://www.apple.com/jp/batteries/maximizing-performance/

『Apple製デバイスは、広い周囲温度範囲で正しく動作するように設計されており、最適な範囲は16°C~22°Cです。バッテリー容量に回復不能な損傷を与える可能性があるため、35°Cを超える周囲温度にデバイスをさらさないことが特に重要です。損傷を受けた場合は、そのバッテリーが一回の充電でデバイスを駆動できる時間が通常よりも短くなります。周囲温度が高い場所でデバイスを充電すると、より深刻な損傷を与えることもあるので注意してください。推奨されるバッテリー温度を超えると、ソフトウェアが80%以上の充電を制限する場合もあります。また、高温な環境でのバッテリー保管でさえ、回復できないダメージをバッテリーに与える可能性があります。』

iPadのバッテリーにリチウムイオンバッテリーを採用しており、35℃よりも高い高熱にさらされることで深刻なダメージを与えてしまう恐れがあることを指摘しています。学校の建物内で空調整備のできていないところも少なくはなく、高温に弱い性質の情報機器の保管場所には何かと頭を悩ませることが多いのが実情かと思われます。

教室内の空いているスペースもあまりない中で、保管庫が窓際に設置されていたり、空調設備のない廊下に設置されていたり、比較的外気温から影響を受けやすいところに保管されているというケースも多いのではないでしょうか?

GIGAスクール構想による端末整備以前、学校で導入された情報機器は1校あたり数十台規模の導入が多かったと思いますが、GIGAスクール構想で整備されるのはほぼ1人1台での導入となるため、各校で夏場に常時冷房の効いている部屋に、全員分の端末を保管することができるのか、それぞれ学校毎に事情は異なるとは思いますが、難しいケースもあるかもしれません。

なお、高熱以外にもバッテリーに負担が掛かってしまうケースがあり、それはディスプレイがずっとつきっぱなしになっている場合がそれにあたります。例えばGIGAスクール構想ではiPad本体と一緒に配備されることが多いと思われる「キーボード一体ケース」を活用する場合に、ケースの蓋を閉じるとディスプレイも連動してするスリープ状態になる設計にはなっているものが多いのですが、保管庫内の収納の際にケースの蓋のズレなどの要因により、スリープ状態が解除されてディスプレイが灯ったままで充電をし続けてしまう可能性もあります。これではバッテリーに長時間負荷がかかってしますので、理想としては学校保管の場合、使い終わった端末は保管庫に戻す前に電源をオフにするルールで運用できるとバッテリー膨張のリスク軽減につながると思います。

理想としては、1人1台端末を児童生徒個人に割り当てを行い、下校時には家に持ち帰り、登校時に家から持参するというルールで運用できれば、今回お伝えしたバッテリー膨張問題のリスクは幾分低減することができるのではないかと考えています。

せっかくGIGAスクール構想で整備した端末は少しでも長持ちさせたいもの。その目的を達成するためにも、熱に弱いという情報機器端末の特性を理解して、適切な運用を日本全国で実施してもらえることを願って止みません。